クロストライアード

どんな時でも、釣ってくる人がいる

どんな時でも、釣ってくる人がいる。いつも、グッドサイズを手にする人がいる。あの人は、自分と何が違うのだろうか。あの人は、自分の知らない何かを知っている。その何かを知りさえすれば、自分もあの人のようになれる。そう感じたことはないだろうか。

しかし、それは、時を重ねることなく幻想であることに気付くときが来る。それを、知ったところで、自分は、あの人のようにはなれない。その理由は、あの人があの人であり続けるところにある。そして、自分は、自分以外ではありえない。

あの人には、あの人のスタイルがあるように、自分には自分のスタイルがある。価値感や感性が異なるように、それぞれにはそれぞれにあった方法がある。自分のスタイルを確立することに、無関係の情報やテクニックに翻弄されていた状況は、今日で終わりにしよう。

「釣られないサカナが、オオモノになる」

この言葉が、教えてくれる本質は何か。様々な情報や意図が、色々なコトを難しくしてきた現実。今、バス釣りをより深く、シンプルにするためのパラダイムシフトを起こすときだ。パラダイムシフト、視点や認識の転換を起こすことは難しくない。それは、一瞬で起こすことが出来る。それを実現するための体系化されたパラダイムシフトメソッド。それが、クロストライアード。

1.サカナを釣るということとは?

サカナを釣るということは、自分の行動に対して、“期待している相手の反応”を得るということだ。サカナ釣りにおける、“期待している反応”とは、つまりバイトを得ること。どうすれば、期待している反応を得ることができるか。争点は、その一点に絞られる。

反抗的な人に、何かを食べさせたければ、「絶対に食べるな!」ということだ。そんな人に「食べてください」とお願いしても、決して期待した反応は得られない。これと同じように、バイトという反応を得るには、その状態を知り、適切なアプローチをする必要がある。

サカナの状態は、エリアによって異なる。また、季節や固体の大小などによって、そのテリトリーや水深を分けゾーンを形成する。逃げるものを追うときもあれば、待っているときもある。こうした様々な状態を理解したうえで、これらの要素が、そのときの状態と合致しなければ、期待通りの反応を得ることはできない。

「バス釣りは、確率のゲーム」

如何に、効率的にバスにアプローチし、バイトさせるか。そのプロセスに難しさがあり、そして面白くもある。ルアーでバスを釣るということは、このゲームに参加する意思を表明しているようなもの。もし、サカナが釣りたいだけならば、今すぐこれを閉じて、エサ釣りに転向されることをオススメしておく。

2.釣りの上手下手

“期待した反応”を得るための要素は、その時々で異なる。また、1日の中においても、その状況は変化していく。その変化に合わせて、エリア、ゾーン、スピード、アクションの要素をバランスよく調節すること、そのバランスのとれたアジャスト(調節能力)こそが、釣りの上手下手を決める。

実際、釣りの上手い人は、1日の中で、エリア選択やアプローチをタイミングよく変化させる。そして、その時々の状態にあった、適切なアプローチを選択する。適切であるということは、効率的であると言い換えることもできる。釣りが上手くなりたければ、アジャスト能力を身に付けること。この一言に尽きる。しかし、これは決して簡単なことではない。アジャスト能力を身に付けるには、どういったスキルが必要となるのか。そのスキルを、体系化したものがクロストライアードスキルだ。

3.トライアードスキル

適切、かつ柔軟にアジャストし、どんなときでもバスを手にする能力は、3つのスキルに支えられている。トライアード・スキルとして、定義する3つのスキルは、シチュエーションリーディングスキル、メソッドセレクトスキル、アプローチスキルだ。

(a)シチュエーションリーディングスキル

シチュエーションリーディングスキルとは、状況を読み解くスキル。その状況を正しく把握するには、シーズナルパターンと環境要因を理解する必要がある。シーズナルパターンとは、色々な側面で語られることがあるが、結局のところ、バスが今(その季節に)、何にフォーカスしているかを読み解くこと。

バスが、捕食、生殖、安全のどれに、最もウェイトを置いているか、ということだ。バスが、その季節によって、どの要素にフォーカスしているかによって、シーズナルパターンは構成される。バスがシーズナルパターンを意識し、ある行動や選択を行う背景には、必ず水質、風、ベイト、水温、流れ、ストラクチャーなどの環境要因が影響する。

バスが何にフォーカスしているかによって、意識する環境要因も異なってくる。シチュエーションリーディングスキルとは、これらの複合する要因から、バスの状態を導き出すスキルだ。シチュエーションリーディングの結果として、そのとき最も反応を得られるであろう、エリア、ゾーン、スピード、アクションについて、一定の方向性を導き出すことができる。この方向性の如何が、その後の釣果の80%以上を決定付けているといっても過言ではないだろう。

(b)メソッドセレクトスキル

ルアーやリグの種類には、長い歴史の中で磨かれ、それぞれの必要性に導かれた特性がある。メソッドセレクトスキルとは、そのリグやルアー特性を理解し、最も効率的であるのは、どういった状況下で利用することなのかを、理解し選択できているということだ。なぜ、そのルアーやリグが、その形態をしているのか、その存在意義を確かめるように、理解していく。

ミノーで釣ることができる状況下で、ワームでも釣ることはできるだろう。しかし、効率性を徹底的に追及することに、意義があることを忘れてはいけない。また、カラーセレクトも重要なメソッドセレクトスキルのひとつに挙げられる。太陽光や水質、ニゴリ、ベイトなどの要因から、反応のいいカラーをチョイスしていく必要がある。

(c)アプローチスキル

シチュエーションリーディングスキルで導いた状態に対して、もっとも効率的なルアーを選択した。あとは、そのルアーを、思い通りに扱うことだ。そこで、求められるのがアプローチスキルだ。アプローチスキルとは、キャスティング、スピード、アクションなど、リグやルアーを操作するためのスキル。

入れたいスポットに一発で入れることの優位性を理解しておきたい。1回目のキャストでスポットに入れることが出来れば得られたバイトも、2回目以降となれば、そのバイトの確率は、1/10以下に下がると覚えておく。スピードも、またバスの反応を左右する重要な要素だ。デッドスローがよいときもあれば、速引きがよい場合もある。ステディーリトリーブとは、一体どれくらいのスピードをいうのか。それは、全く個人の感覚によるものだ。

流れがあれば、同じ速度で巻いてもスピードは異なる。リーリングスピードというよりも、むしろ引き抵抗の感覚で、ベストのスピードを感じ取る。それは、もはや身体で覚えている感覚以外の何物でもない。まるで、自分の手の延長のように、思いどおりにルアーを操る。ルアーの動線の確固たるイメージと、それを実現するスキルが、理想的なアプローチを実現する。

4.アジャスト能力を加速するヒント

教科書の内容を覚えるように、貪欲に知識を身に着けたとしても、トライアードスキルは、身につかない。知識は、基本であり絶対条件だが、充分条件ではないのだ。身に付けた知識をベースにして活かし、トライアードスキルを効果的に向上させ、アジャスト能力を加速するための5つのヒントを示しておく。

(a)周辺を描く

一言で知識といっても、様々なレベルがある。バス釣りの知識をつけようとすれば、まずバスそのものについて学ぶ。そして、バス釣りの道具や方法について学ぶ。しかし、本当に重要なことは、その周辺の知識を学ぶかどうかだ。「親指を描くには、その周辺を描け」といった芸術家がいた。つまり、周辺を描けば描くほど、そのものが際立ってきて本質が見えてくる。

そのものに係っている周辺とは、バスを取り巻く環境。ベイトフィッシュや自然環境について、学べば、なぜバスがそう行動するのかの本質が見えてくる。その本質を捉えた知識と表面の知識の差。それは、1°のズレが、その先に行くにつれて、大きく広がっていくようなものだ。

(b)RASシステムを活用する

「人は、見ようと意識しなければ、見ることができない」。自分の周りには、常に情報が溢れている。だから、見ようとしなければ見過ごすものが多い。人間の脳には、成功とサバイバルに必要な情報以外を消してしまうという作用がある。つまり、不要な情報はいらないと判断して受け取らない。逆に、必要な情報は貪欲なまでに吸収しようとするということだ。

これは、哲学でも思想や考え方でもない。人間が持つ性質であり、ひとつの法則だ。だから、この法則を疑ってはいけない。誰であろうと、善人だろうが悪人だろうが、ビルから飛び降りれば同じように地面に叩きつけられる。この重力の法則を疑うものはいないだろう。それくらい当たり前のことだ。明確な目標をイメージできると、脳のRASシステムが作用して、目標をできるだけ早く達成するための情報を磁石のように引き寄せる。

RASシステムとは、レティキュラー・アクティベイティング・システムといい、神経組織を刺激して活発にするシステムのことだ。つまり、RASシステムが作用すれば、今まで見過ごしていた情報が見え、その対応として必要な手段が自然と現れてくるということだ。この磁石の力を使えば、自然と今までと状況が変わってくる。

目標を明確にすることで、見えるものが変わってくることを、体感することができる実験方法がある。今から10秒間、自分がいる部屋を見回して赤いモノを探してみてほしい。・・・・見つけることが出来ただろうか?それでは、次の質問に答えてほしい。

「今あなたがいる部屋にある青いモノを3つ答えよ」

目標を明確にして、意識して見ようとしなければ、見えてこないものが確実にあるということだ。知識や情報の効能は、それ自体が大きな成果をもたらすことだけではない。プロとアマチュアの違いを一言で表すならば、「プロは、より細かい区別をすることができる」ということだろう。たとえば、プロの陶芸家は、土の種類を何十種類も区別できる。素人には、同じに見える土を細かく区別して使い分けることによって、プロとしての「結果」を導き出している。

RASシステムを充分に活用して、より細かい区別を行うための視点を養うことによって、「今まで見えなかったこと」が見え、自分の経験に出来る。「気付き」があって、「見方」が変わる。それは、新しい局面を知ることになり、そして新しい区別によって、選択の質が上がる。「見方の変化」は、どんなテクニックやリグを真似ることより、格段に上達のスピードを上げてくれる特効薬だ。

(c)空間認識能力と抽象化

インターネットで欲しい情報は、すぐに手にすることができる情報化社会の現代では、行動範囲も無限に広がり、時間の使い方も変わった。それに合わせて、情報の質と量も変化してきた。しかし、私たちの人生は、都度、必要なすべての情報を把握して、結論を導き出すには短すぎる。もはや情報を、その情報そのものの価値として捉えることでは、成り立たない状態なのだ。

そこで、必要となることは、「空間認識」という概念だ。あらゆる情報を、物理的空間、時間的空間、情報的関連性といった空間で捉えて認識する。情報を、ある点で捉えるのではなく、時間的、物理的な連続性の中にあるものとして捉える。つまり、ある情報には、その前後が必ずあり、そこに到るまでの経緯が必ず存在する。こうした空間認識に立って、はじめて情報を先の判断に活かすことができる。

空間認識は、人間の特筆するべき能力のひとつであるといえる。その空間認識の中核をなす能力が、“抽象化することができる”という能力だ。人間は、シャム猫も三毛猫も、同じ猫だと認識できる。AIに、それを教えるために、4本足の動物と教えると、犬と猫の区別はできない。人間は、猫という生き物を抽象化し、同じ種類のものを自然と猫だと認識することができる。

この抽象化を情報処理に活用すればいい。抽象化のコツは、コンピューターに教えるように情報を処理してしまわないことだ。つまり、漠然と把握しておく。まさに、空間に浮く浮遊物のように情報を捉えておく。その空間認識によって抽象化された情報は、全く別の情報に直面したとき、ある側面における関連性を見抜くきっかけとなる。“水鳥の動きを見て、ベイトフィッシュの動きが読めた”、“山の形から、地形の変化が読み取れた”。そういった一見関連性がない情報から、ヒントを得ることができるのも、抽象化のなせるワザだ。

(d)情報の読み方に基準を持つ

現代の社会では情報は、氾濫している。そして、多くの情報は発信者の意図を反映して発信される。それ故、すべての情報を取り込んでしまえば、必ずどこかで矛盾を生じてくる。情報には、取捨選択が必要だ。その基準は、極めて単純だ。その情報が、自分のどのトライアードスキルを補足する情報なのか。自分のスキルは、今、その情報を、必要としているかどうか。それだけを自問自答するだけでいい。

どのスキルも補足しないような情報は、余計な情報だ。そうした情報は、最初から、取り込まないなど、受け流すことが賢明だ。いつか役に立つとか、何かの役に立つと感じるかもしれないが、その“いつか”や“何か”が訪れることはない。そういった情報は、自分にとっては、栄養にならないばかりか、毒する情報である可能性もあるのだ。

情報が氾濫する情報化社会である昨今、自分に必要な情報は何かということに目を奪われがちだが、“何が必要か”ではなく、“何が不要か”ということに目を向ける必要がある。

(e)仮説と検証

アジャストするということは、その背景で仮説と検証を繰り返した結果だ。シチュエーションリーディングによって仮説をたて、メソッドセレクトとアプローチによって実践、検証する。その仮説検証のサイクルを小さく早く回していくこと。それが、アジャストすることに繋がる。仮説検証とは、次のような手順を踏む。

①状況の観察と分析
まずは、よく観察する。そして、その目的をしっかり抑え、背景や条件などを分析し、どう変化していくかを分析する。

②仮説の設定
観察と分析結果を踏まえて、ある仮の答えを設定する。これらが、いわゆる仮説ということになる。

③仮説の検証
設定した仮説が正しいかどうかを検証する。仮説設定時以上の情報リサーチを行い検証、修正する。

このプロセスのサイクルが、より早く、より精度が高ければ、欲しい結果に、早くたどり着くことができる。トライアードスキルは、まさに、このサイクルを、より早く、より精度高く行うためのスキルだといえる。

5.ベーシックトライアード

釣りに限らず、あらゆる物事は、長くやれば、それに比例して上達するものだろうか。それが事実ならば、長くやっている人が常に優れていることになる。しかし、実際は、そうではない。高度なテクニックや経験の豊富さだけでは、並外れた結果を残すことはできない。ここで自分は、並外れた結果など望んでないというだろうか。確かに、たとえそれを望んだとしても、並外れた結果を残すことはできないだろう。しかし、並外れたところを目指すからこそ、上の位にいけるのも事実だ。

上の位を目指せば、並み。並みを目指せば、下の位に落ち着く。だから、並外れた結果を目指してみる。並外れた結果といえば、金メダル。しかし、金メダルと銀メダルの差は、もはや技術的な差ではない。差として現れてくるもの。そこには、ベーシックトライアードが存在する。集中、セルフイメージ、無意識のベーシックトライアード。並外れた結果を出すには、この3要素の高次元でのバランスが必要なのだ。

(a)集中

培った能力を最大限に発揮するために集中することが必要だ。これに異論はないだろう。しかし、集中力の持続に必要なものは、精神力と思われがちだが、実際はそうではない。それ以前に必要なものは、体力。体力の不足が、集中力の欠如を招く。集中力を養うには、まず体力を増強することから始めなければならない。

(b)無意識

自分が、優秀なバッターだったとしても、時速180キロの球を頭で考えて打ち返せるだろうか。そのタイミングや筋肉の動きは、意識して考えられたものではなく、無意識の領域で行われる。無意識を極めるには、繰り返しの練習が効果的だ。練習を積み重ねれば、無意識に身体は動くようになる。繰り返しの練習の意味は、この領域への到達にあるといえる。

(c)セルフイメージ

脳は、自分のイメージしていること、信じていることを実現しようとするという。このことに従えば、もし、今の自分が、「いつか、一流になりたい」と感じているならば、自分が一流になる日は訪れない。なぜならば、「一流になりたい」と感じているということは、「自分は今、三流である」ことを認め、信じていることの証明になるからだ。だから、実際に三流である自分が実現し、「一流になりたい」という状況が実現し続けることになる。セルフイメージとは、なりたい自分に既になっていると信じること。そのセルフイメージによって、現実があとから追いついてくる。もし、自分が、ここぞというときに、力が発揮できないならば、その理由は、セルフイメージの描き方に原因があるのかもしれない。

6.クロストライアード ~高次元へのレベルアップ~

ベーシックトライアードとトライアードスキルとのクロストライアード。クロストライアードの各頂点が示す項目は、それぞれの相乗効果によって最大限の効果を生み出していく。忘れてはならないことは、この相乗効果の公式は、乗算(掛け算)であるということだ。乗算においては、ゼロに何を掛けてもゼロ。つまり、どんなに素晴らしいルアーを手にしても、状況が読み取れなければ、成果はゼロになるということだ。

”アジャスト能力を加速する5つのヒント”を参考にしながら、各項目をバランスよく向上させていくという意識が重要だ。高い次元でのクロストライアードを実現することができれば、それは、必ず精度の高い直観やヒラメキにつながっていく。腑に落ちた直観やヒラメキほど、信頼できる情報はない。そのサイクルに乗ってしまえば、高次元へのレベルアップは、自動的であり保障されているといえる。

おわりに

人は、知らず知らずのうちに、周囲の状況に巻き込まれていく。そして、その集団や環境の判断が、自らの選択だと勘違いをしてしまう。その勘違いの連続は、観念や価値観を変えていき、いつしか辿り着いた場所が、自分が本当に目指していた場所なのかにも、気づけなくなってしまう。

釣られないサカナは、オオモノになる」

この金言が教えてくれることは、とてもシンプルだ。必要なモノ、必要でないモノ。それらを、自らの基準で見極めていく。今、このときに、パラダイムシフトは、起こせただろうか。クロストライアードが、その一助になることを期待している。